練習の実践
ツェルニー30番練習曲 第1番 ハ長調、作品849-1
 


ピアノの練習を続ける中で、ほぼ必ず向き合うことになるのがこのツェルニー30番です。
今回は第1曲目を取り上げて、譜例と録音による解説を交えながら皆さんと一緒に練習してみたいと思います。


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(1)楽譜から曲をイメージする
(2)ハーモニーの流れを読む
(3)いくつかの箇所への具体的なアドヴァイス
(4)この曲を弾くための手の使い方
(5)速いテンポで演奏するための練習



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(1)楽譜から曲をイメージする


まず、楽譜をよく読み、音楽のイメージを掴みます。
実際に弾けるか弾けないかは考慮に入れず、頭の中で自由に音楽を鳴らしてください。



楽譜の表面から大雑把に曲の特徴を捉えてみます。

     ・Allegro(二分音符=100)というテンポ表記があることから、快活で速いテンポ。
     ・旋律は流動的な三連符が絶え間なく続いており、さらさらと流れている感じ。
     ・ほとんど、I(一度=トニック)かV(五度=ドミナント)のハーモニーばかりで濃く歌うべき内容はあまりない。
     ・曲の起伏は主に「強弱」「伴奏のアーティキュレーションの変化」の2つによって起こされる。

以上のような点から、軽くて流動的、そして内容的には単純でテンポの速い曲ということがわかります。
単純なだけに、アーティキュレーションや強弱の変化も大事な要素としてしっかり表現していきたいものです。


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(2)ハーモニーの流れを読む


まず、ハーモニーの機能について簡単に触れておきます。

音楽は常にV(五度=ドミナント)からI(一度=トニック)への進行を繰り返すことで進行していきます。
まるで人間が呼吸をするのと同じように当たり前に繰り返され、音楽の進行にとって最も基本的な動きとなります。

しかし、このIとVの繰り返しの中には心動かされるような出来事や感動はあまりありません。
音の形や強弱に変化がつくことで雰囲気は多少変わりますが、
ずっとこのハーモニーの繰り返しが続くと退屈でつまらない曲になってしまいます。

やはり音楽には気持ちを動かす部分があってほしいものです。

実はその「気持ちに作用する部分」というのが下記に示した通り、
14小節目のII(二度)と27〜28小節目のIV(四度)のハーモニーの部分です。
それぞれ、前半の山場、後半の山場(=曲全体のクライマックス)と言えます。




この赤く塗った部分(IIとIV)に山場が来るようにフレーズを歌うと、ハーモニーの感覚が生きた自然な音楽になります。
例えば、IIの部分はグッと内面に向けて一生懸命弾く感じで、IVの部分は開放的な感動を覚えながら弾くといいでしょう。
(注:前半の山場はまだあまり大げさなものではありません。)


大体の流れがイメージできてきましたね。


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(3)いくつかの箇所への具体的なアドヴァイス


さて、よりセンスの良い演奏を目指して、ここでいくつか重要なアドヴァイスがあります。

 ・5〜7小節目の左手、スラーの切れる音は軽く捨てるようなつもりで短く弾いてください。バスの二分音符も一緒に切ります。
 ・8小節目の頭の左手のGHの和音は短く軽く抜いてください。この音が重たくなると、この半終止のつなぎの部分が台無しです。
 ・前半後半ともに終わりの2小節間の左手のアーティキュレーション(音の繋ぎ方、切り方)を徹底するように心がけてください。
 ・17小節目からの形は、内声(アルト)に対してソプラノは若干軽めに。フォルテだからと言ってあまり鳴らしすぎないように。
 ・23〜24小節目の左手のホルンのような響きは、marcato(はっきり)ではあるけれど、poco(少し=やりすぎないで)。
 ・23〜24小節目の2分音符の繋ぎでは瞬間的にペダルを利用しましょう。他にも必要を感じれば適宜ペダルを使って構いません。(スタッカートには十分配慮して)

 注)ツェルニーにペダルを使わない主義の人がいますが、私はそれには同意しかねます。同時代のベートーヴェンの作品を弾く時にペダルなしで弾くでしょうか。同じようなパッセージが書かれているのに、ベートーヴェンでは踏み、ツェルニーでは踏まないなんていうことはおかしな話です。ツェルニーは指の練習だからペダルは踏まないという人が仮にツェルニー30番の4番や15番や26番などでペダルなしでの技術を身につけたとしても、それはおそらくモーツァルトやベートーヴェンで使わないテクニックだと思います。なぜなら、このようなパッセージが出てきた時は古典であれロマン派以降であれペダルを踏むのが普通だからです。実践で使わないテクニックを習得するのではなく、実際にそのまま役に立つ形で(むしろツェルニーの曲もベートーヴェンの曲を弾くようなつもりで)練習した方がより合理的であり音楽的でもあるように思います。


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(4)この曲を弾くための手の使い方


さて、音楽が掴めてきたところで、今度はテクニックに目を向けてみましょう。
(くれぐれも順序を間違えないようにしてください。「音楽のイメージを持つことが先、それを実現させるための技術は後から」です。)

まず、勘違いされやすいことですが、この曲の場合は指を高く上げないでください。
いわゆるハイフィンガー奏法は禁物です。
指をはっきり動かさないとリズムのコントロールができないのではと心配する人も、まずは思い切ってやめてみてください。

指はなるべく暴れないようにし、無駄のない必要最低限の動きで腕の重みを支えます。
つまり、指の仕事は指を動かして鍵盤を押し込むことではなく、腕の重みを支えることのみと考えてください。

腕は幽霊の腕のように(あるいはひもで上から吊り下げられた操り人形の腕のように)半分持ち上げておきます。
そのまま、クレーンで荷物を吊り下げて地上にそっと置くようなつもりで指を鍵盤に乗せます。
必要な音に対してピッタリの重さがかかればオーケーです。(=「重さが乗る」「重さを落とす」という感覚)

あとは腕の中心に重心点を感じ、柔らかく腕を回すようにして重心を移動させます。
重心の移動のタイミングに合わせて指が支える役目を果たしてくれれば苦労することなく豊かな音が鳴ります。
(この時に、くれぐれも過剰に指を動かしていないかどうか気をつけていてください。)

打鍵直後に重心を一ヶ所で止めてしまわないよう気をつけてください。常に次の動きに向けて流動的に重心を流すのがコツです。
一つの流れの終点の音では、打鍵直後に重心を必ず浮かせてください(重さは上に逃がします)。

この奏法(重力奏法)で弾いてこそ、本当のレガートや響きの充実度を味わうことができます。
体に無理がかかっていない楽な状態で自在に音を操れると、とても気持ちが良いものです。


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(5)速いテンポで演奏するための練習


残された課題はおそらく速いテンポでのリズムのコントロールでしょう。

なにしろ、この曲の意地悪なところは頻繁に右手の音の並びが変わることです。
頭の回転が悪いと(ろれつが回っていない状態だと)音の並びの変化に対応できずに、手の方もあたふたしてしまいます。

アナウンサーが滑舌よくはっきりと話すのと同じように、各音をはっきり意識して弾きましょう。
頭の中での音の発音の速さと明確さ、それがダイレクトに現実の音となって表れてきます。
そのためには、いかに集中力を発揮できるかがものをいいます。

よく弾ける人でも頭が疲れている時や、日常的な脳の状態のままでは、速いテンポで正確に弾くことはできません。
私自身も速いテンポで正確に弾ける時もあれば、2倍遅いテンポでもちゃんと弾けない時もあります。
それほどにまで集中力の及ぼす能力の違いというのは大きいのです。
まずはそれを知っておいてください。


しかし、人間の脳というのは不思議で、ある種のトレーニングや繰り返しを行うと驚異的な速度で頭が回転するということが起こります。
それでは、脳のトレーニングを兼ねて効果的な練習方法をいくつか紹介していきます。
(何度も繰り返しますが、曲のイメージを持つこと、テクニックの質の理解が前提です。ここからは最終段階と考えてください。)



[各音に意識を届かせる(=責任持ったコントロールを行う)ためのリズム練習]

下記に紹介するようなリズム練習を苦手な部分に取り入れてみてください。
また、集中力の持続を試してみたい時には、これらの形のまま一曲通して弾いても構いません。

あるリズムをコントロールするためには、個々の音に充分な意識が届いていなければなりません。
ということは裏を返せば、リズム練習をしてみてコントロール不能に陥った箇所が音への意識の薄い部分だということです。
その苦手なリズムでその部分を気をつけて練習することで、意識の薄かった音に充分な意識が到達するようになります。
そうなって初めて正確なコントロールが可能になります。リズム練習のメリットはそこにあります。

そして、人の脳はある単純なことを繰り返していると、どんどん高速化していきます。
慣れたことは本人にとっては余裕の速度感でありながら、他人から見るとものすごい高速だったりする現象が起きてきます。

以上のことを踏まえて、下記のリズム練習を効果的に取り入れてみてください。



パターン1
←実際に聴いてみる   ←速いテンポでも



パターン2
←実際に聴いてみる



パターン3
←実際に聴いてみる



くれぐれも指を過剰に上げないように気をつけて練習してください

パターン1とパターン3に関してはバリエーションもやってみましょう。
パターン1のバリエーションはパターン4に、パターン2のバリエーションはパターン5に対応しています。



パターン4




パターン5
←実際に聴いてみる




時には下記のようなリズムを練習するのも効果があります。
これはいきなり速いテンポではできないと思います。
なぜなら、一つ一つの音全てにコントロールすべき内容があるからです。
(一つ一つ脳が判断を下すのに最初は時間がかかります)
また、速いテンポでできるようになっても、「二分音符=60」くらいで充分です。

パターン6
←実際に聴いてみる




今度は9小節目以降の形に有効な練習を紹介します。
長く伸びるソプラノのGの音とは違う次元(多声部)での処理が必要になってくるので、そのための分離の練習です。
最終的に分離した状態とは、ソプラノのGに小指を残しておきながら、内声部で自由に重心を回せるということです。
(注:この練習の時は内声をスタッカートで弾きますが、最終的にはレガートで腕を回すようにして弾くので、そのイメージも頭の片隅に持っておいてください。)

←実際に聴いてみる





今度は後半に入った部分です。
ここは各拍の頭に意識を持たせて、裏拍では軽く浮かせるようにすると弾きやすいので、
その感覚を得るために下記のような練習が効果的です。

←実際に聴いてみる




そろそろこの曲にも馴染みが生まれてきたことでしょう。
実際に速いテンポで演奏している時には、ゆっくりの時とは違った感覚が必要になってきます。
下記の譜例の赤く塗った音符の単位で流れを意識していくと弾きやすいです。
4分の4拍子というよりは2分の2拍子に近い感覚です。

一回この例に従って弾いてみてください。
(13〜14小節目で1拍ごとに感じるのは私の趣向です。2拍ないしは1小節で1つでも構いません。そのあたりはご自由にどうぞ。)

←実際に聴いてみる


だいぶ感覚が掴めてきたのではないでしょうか。

それでは今の感覚に乗せて、前半部分を通して弾いてみましょう。


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練習しているうちに指定のテンポを超えて弾くことも可能になってきます。
しかし、表現の限界や聴き手に伝わる限界を見極めるようにしましょう。

例えば、人前でこの曲を弾く時にこのような高速のテンポで弾くと、
一瞬で曲が過ぎ去ってしまい、せっかくの表現の内容や味わいが伝わらない恐れがあります。

しかしながら、敢えて限界とも思えるような非常に速いテンポでも練習しておくと、
本来のテンポに戻した時にとても余裕が感じられるというメリットがあります。

余談になりますが、双方がこの曲を熟知している場合には、非常に高速でも通じることもあり得ます。
同じ速さでついていける頭と耳の状態になっている人には音楽に聴こえます。
とても不思議な現象で興味深いことでもあります・・・。

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それでは最終的に私なりに仕上げのつもりで弾いた録音がこちらになります。

とは言え、ピアノ演奏は本当に難しいものです。この録音でも私なりに問題点はまだいくつもあります。
レッスンや練習ではさらにそれを突き詰めて磨きをかけていくわけですが、いざ本番にどれだけ納得のいく演奏ができるか・・・
それは本当に難しいことです。^^;


どうぞ皆さんもご自身で納得のいく演奏を目指して精進に励んでください。

それでは、今回の練習の実践はこの辺で・・・




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